窓のむこうから

大平高之さんの『夏の小窓』という展示へ。
会場は吉祥寺の一日という本屋さん。井の頭通りと中央線の交差するガードの脇にある。ちょうどいい時間帯に来たのかもしれないけれど、街の喧騒からすこし離れている場所でほっとする。
扉を開けると小上がりになっていて、正面奥にカウンターがある。ギャラリースペースは左手。その間にサイズの大きな洋書などが並んでいたようにおもう。残念ながら大平さんはいらっしゃらなかったが、今回は20点ほどの絵が飾られていた。ちょうど前にいたお客さんと入れ違いだったので、一人きりでゆっくりみることができた。
大平さんの絵は景色に溶け込む。それは、あわい水彩で描かれているからだけでなく。これまで観たトムネコゴ、cafe vuori、senkiyaでも、その場所場所にふさわしく、いつまでもそのまま飾られていてほしいとさえおもってしまう。
はじめに気になったのが「小さな花」という2枚の絵。なんの迷いもなく、すっとひかれた茎とほころぶ花。大平さんはいつもどんなふうに描いているのだろうと不思議におもう。絵筆を紙のうえに置いただけで、自然にその姿が浮きでてくるような。そう、たとえば葉脈標本のイメージ。かたちはもうすでにそこにあって、じっくり現れるのを待つ。標本づくりと違うのは、誰にでもその瞬間をとらえられるわけじゃないということ。
今回の展示でいちばんのお気に入りが「静物」という作品。花が挿してあるグラスの前にレモンのような果物が転がっている。いつもより深く重ねられた紺色、まるで水の底に沈んでいるみたいに。題名の通りとても静かな印象を受ける。そして、ゆっくりゆっくり息をはく。
大平さんの絵をみた帰り道には、普段よりも自然に目がいく。自然といっても大きなものじゃなく、道端の雑草や軒先の鉢植えや公園の花々。今だったらヒルガオや百日紅。どこからかゴマダラカミキリムシや赤トンボも飛んできた。子どもの頃の夏休みを思い出しながら空を見上げると、もう秋の空みたいだった。