つばめのひみつ

夏の夕暮れ、ある河川敷。
空を見上げると無数の黒い点が縦横無尽に舞っている。まるで銀河から降ってくる流星群のような。大きな意思のある生き物のような。ぼくが、めになろう。それってスイミー?
日々の生活のすぐ隣では未知の営みが繰り広げられている。夜の森や海の底、地面の下や空の向こう。「君が知らないってだけで、なかったことにはならないよ」と、どこからか声がする。数年前に知ったツバメのねぐら入りもそのひとつ。
ツバメは渡り鳥。子育てのためにやってきて、夏が終わる頃どこかへ飛んでいく。長い長い旅に出る前に、こうして今年過ごした夏の思い出を語り合っているのかもしれない。数えきれないほどのツバメたちが河川敷の葦原に集まって眠りにつく。
ねぐらの場所はよくわからない。日によって変わることもあるらしい。その日もたぶんあの辺かな?というあやふやな予想でやってきた。オレンジ色の空に目を凝らしながら土手の上を自転車で走る。そろそろ太陽も沈みかけているけれど、その声すら聞こえてこない。
今年もまた見ることができないのかと半ば諦めていたところ、大きな橋の手前で河川敷に降りる砂利道が続いているのに気づいた。人が通ったような気配がないところが逆に期待をもたせる。
自転車を降りて、ガタガタと押していく。大きな砂利に足を取られてしまいそう。しばらく歩いていると、いつのまにか背丈の倍以上ありそうな葦原に囲まれていた。突然、ひゅっと、黒い影が頭上を追い越していく。1つ、2つ。ふり返る。3つ、4つ。そのまま歩く。5羽、6羽。笑う。7羽、8羽。やった!
それからのことは正直あまり覚えていない。どんな気持ちがだったのか。ただずっと空をぐるりと見上げていた。声や音は聞こえていたかな。気づかないうちに辺りは真っ暗になっていた。たしかに見たよね、ツバメのねぐら入り。
世界の全てを知ることなんてできないけれど、それはまるでひとつの謎を解き明かしたような。いや、新しい謎を発見しただけのような。