きょうも世界とめぐり逢う

 世界はきっとめぐり逢いでできている。

 日々、ぼくらが繰り返すめぐり逢いは、どれもがすべて78億分の1の確率。それは毎日顔を合わせる家族や友人でさえも。そのひとつ一つがどんなにかけがえのないものか、自分は忘れていないだろうか。

 山室眞二さんの個展「わたしの森案内」をどうしても観たかった。それは、山室さんがリルケの『猫』という作品の手製本を制作されていたから。ちょうど『マルテの手記』を読み終えたばかり、そして本作りに興味がある(そこには『からむしを績む』という本の存在も)。これはかならず観に行かなくては。

 会場は西荻のもりのこと。壁に並ぶ小さな額の中には、鳥や森の動物たちを描いたじゃがいも版画の数々。いずれも切手のかたちをしていた。「ドナルド・エヴァンズみたいでおもしろいですね」とお店の方に声をかけると、アトリエシムラでも山室さんの展示があることを教えてくれた。

 アトリエシムラといえば、染織家の志村ふくみさん。先月友人が京都のお店へ行った話を聞いて、志村さんの『母なる色』を読み始めていたのだ。導かれるまま、その足で成城へ。

 展示室には、なんと山室さんご本人が在廊されていた。川上日車の川柳に合わせて作った版画のお話がとても軽妙でたのしい。もりのことの展示を観てきたことを話すと、「ドナルド・エヴァンズには及びませんけど」とにっこり。

 後日、予約していた『猫』を受け取りに再びもりのことへ。そこで「あまり知られていないリルケの話だからおもしろいと思いますよ」という山室さんの言葉を伝えてもらった。あとがきに、初版(1993年)は「アダナ」という卓上活版印刷機で印刷されたと書かれていてとても驚いた。つい2週間前に印刷博物館で体験したばかりだったから。

 その帰り道、そういえば『猫の客』ってどんな話だったかな、なんて思いながら今日も。