天文台の時計のなかで

重錘式時計駆動赤道儀という名の天体望遠鏡には、24時間で一周する歯車がある。
持ち上げた重りが落ちる力を利用して、太陽の動きを自動的に追いかけていく。「でも90分に1回持ち上げないといけないのでなかなか重労働なんです」とハンドルに手をかけて係の人がいう。ほとんど止まっているように見えるけれど、あたまの中で時間を早回ししてみると、この赤道儀自体が時計であり、自分がまさに時計の中に入り込んでいるように感じた。
「いま太陽の活動がとても活発なんです。ここに映っているのが太陽の黒点です。かつては鉛筆で黒点の形をトレースしていました」。望遠鏡を通り抜けて、そのまま太陽が白い紙のうえでじりじりと揺れている。「オーロラがいろんな場所で見えていると聞きました。ところで太陽を観測することでどんなことがわかるのでしょうか?」
「地球への影響を調べています」と係の人。しかしもうすでに時計の中にいる自分としては、こう考えていた。天文学とは時間を知るための学問であるにちがいない。一日の太陽の動き、遠い過去からとどく星々の光、宇宙のはじまりとおわり──。
時間とはなにか。はたして時間は存在するのか。陽が昇って沈む、人が生まれて死ぬ、春夏秋冬、季節が巡る。そうしたサイクルの中にいるために、ただ、時間はあると思い込んでいるだけなのかもしれない。時計の中でぐるぐると回りはじめた。