オストロボスニアに伝わるもの 〜 ヨハンナ・グリクセン、ラプアン・カンクリ

伝えるということはとても大切なものです。誰かが誰かに言葉を伝える。その誰かがまた別の誰かに伝える。もしかしたら最初の言葉は100年後の誰かにも伝わるかもしれません。マイッカ灯台美術館へようこそ、どうぞゆっくり楽しんで。こんななんでもない言葉でさえも ──

オストロボスニア、ポフヤンマー、エステルボッテン。同じ場所の地名で、それぞれ英語、フィンランド語、スウェーデン語です。今回ご紹介するのはそんなオストロボスニア地方に拠点や工場を置くテキスタイルメーカーです。エステルボッテンにはなにがあるのでしょうか。ちなみにポフヤンマーは「北の地」という意味です。

Anna ja Liisa

www.annaliisa.fi
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アンナ・ヤ・リーサは、タニヤ、アンドレアス、エリナ、ヨハンナの4人のデザイナーからなるフィンランド西海岸オストロボニア地方をベースとするブランドです。オストロボスニア地方はスウェーデン語圏のフィンランドならではの両国の文化が融合したエリアであり、とても自然豊かな場所です。

2013年から定期的に日本を訪れ、コラボレーションを続けてきたことがブランドの誕生につながったそうです。彼らは、友人や家族、自分たちの身の回りにある自然や、喜びをもたらしてくれる日常的なものからインスピレーションを得ています。

ブランド名はオストロボスニア地方に実際に暮らす手仕事が大好きでとてもクリエイティブな90歳の女性の名前から名づけられました(以前はそのまま「Annaliisa」というブランド名でしたが、最近改名したみたいです。)

Johanna Gullichsen

johannagullichsen.jp
johannagullichsen.jp

ヨハンナ・グリクセンは、ヘルシンキの北西100kmの場所にあるソメロで生まれました。ヘルシンキ大学で美術史、文学、語学を専攻していた彼女は、ポルヴォーの工芸学校で織りの技術を学び、1986年よりテキスタイルデザイナーとしての活動を開始しました。

彼女は自身のブランドを1989年に設立。フィンランドの自然やスカンジナビアの伝統的なテキスタイルを現代的な視点で解釈することに力を注ぎ、良質な天然素材でシンプルな製品を追求しています。

彼女のデザインした生地はオストロボスニアで織られ、バッグなどはソメロで縫われています。2004年には製品のほぼ半分が日本に輸出されていたそうです。グリクセンと聞いてピンときた方もいるかもしれませんが、彼女の祖母はアルテックの共同創始者マイレ・グリクセンです。

LAPUAN KANKURIT

lapuankankurit.jp
lapuankankurit.jp

ラプアン カンクリは、1973年にオストロボスニア地方の小さな町ラプアに設立された家族経営のブランドです。「ラプアの織り手たち」を意味するそのブランド名通り、100年以上前からラプアでテキスタイルの家業を営み、現在4代目だそうです。

1917年に曽祖父がフェルトブーツの工場を設立。大叔父の織物工場で学んだ先代がラプアン カンクリとして独立し、タペストリーを織りました。そして1999年に4代目となったエスコ・ヒェルトがリネンの生産を始めます。

テキスタイル産業はよりコストの安い海外で生産されるようになり、フィンランドでもタンベラ社をはじめ倒産する企業が増えていきました。しかしラプアン カンクリでは現在も良質な天然素材を使用し、糸から製品までを自社工場で製造しています。「小さな工場だからできることがある」という言葉がとても印象的です。

前回、前々回の記事を書くために調べていると、ラプアン カンクリの名前が何度か見られました。ドラ・ユングとエリエル・サーリネンです。ラプアン カンクリでは、ユングがタンペラ社のためにデザインしたリネンの生産を2010年に再開し、Ruusuというデザインでは、サーリネンの暮らしたヴィトレスクのバラがモチーフとされています。そういった継承のかたちはフィンランドデザインにおけるとても良い部分だと思います。

画像はそれぞれのブランドのホームページより