青春の光と影 〜 ティモ&トゥオモ・スオマライネン、ユハ・レイヴィスカ
あの頃は自分が灯台守になるなんて思ってもみませんでした。絵描きになるんだって言いはってましたから。それがいつの間にか戻ってきて、美術館を開いています。遠回りしてもいつかは辿り着くのかもしれませんね ──
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Raili & Reima Pietilä, 1926-/1923-1993
ライリ&レイマ・ピエティラは、アルヴァ・アアルトに次いで最も国際的に有名なフィンランドの建築家であるといわれています。1963年に結婚した二人は、タンペレのカレバ教会(1966年)、ヘルシンキ工科大学のディポリ学生組合(1966年)という2つの重要な建築コンペで優勝しました。
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タンペレ市立中央図書館 / Pääkirjasto Metso, 1986 |
タンペレの中央図書館は、上から見ると鳥の形に似ていることから「メッツォ(オオライチョウ」と呼ばれています。2016年まで移転前のムーミン谷博物館はここにありました。
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マントゥニエミ大統領公邸 / Mäntyniemi, 1993(©️YLE) |
マントゥニエミは、フィンランド大統領の3つの公邸のうちの一つです。1981年に重病で辞任したケッコネン大統領が当時の公邸タンミニエミで過ごすこととなり、コイヴィスト新大統領に別の公邸を用意するため、公開建築コンペが開催されました。
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Klovharu (©️svenska.yle.fi) |
ピエティラ夫妻は、人里離れたクルーヴハル島にある有名なサマーコテージの設計をしました。それは、レイマの姉でアーティストのトゥーリッキ・ピエティラとトーヴェ・ヤンソンのためのサマーコテージです。また彼らはトーヴェのヘルシンキのアトリエも手がけています。
彼らの建築は、従来のフィンランドのモダニズム建築を逸脱し、より有機的で近代的な建築であったと考えられています。またレイマ・ピエティラは、哲学や近代文学にも精通しており、フィンランドのアイデンティティや場所や言語などにも関心を持ち、探求することを忘れませんでした。
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Timo & Tuomo Suomalainen, 1928-/1931-1988
1956年、ヘルシンキ工科大学を卒業したティモ・スオマライネンは、まだ在学中であった弟トゥオモと一緒に設計事務所を設立しました。彼らは機能性や合理性を求めるだけではなく、自然と融合した建築を目指していました。
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テンペリアウキオ教会 / Temppeliaukion kirkko, 1969 |
テンペリアウキオ教会は「岩の教会」とも呼ばれ、岩盤をくり抜いて造られています。当時の合理的な建築とは全く異なっていたため、多くの反対意見が寄せられました。自然光を取り入れたこの教会は、音響効果がとても良くコンサートなどでも使用されています。
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エスポーラハティ教会 / Espoonlahden kirkko, 1980 |
エスポーラハティ教会でも、コンクリートや銅のほか、現場で掘削された岩なども建築資材として使用しています。近代的な教会ですが、岩のなかに1メートルほど埋もれている部分もあります。2016年から2017年にかけて大規模な修復が行われました。
トゥオモ・スオマライネンが亡くなる1988年まで、彼らは共同で設計を行いました。また二人ともヘルシンキ工科大学の臨時教師を務めています(ティモは1961〜64年、トゥオモは1960〜63年)。
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Matti Suuronen, 1933-2013
1960年代に入ると、より実験的な建築があらわれるようになります。マッティ・スーロネンは、1961年にヘルシンキ工科大学を卒業するとすぐに設計事務所を設立し、強化プラスティックによる建築「Futuro」を設計しました。
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Futuro, 1968 |
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Venturo, 1971 |
「Futuro」が好評を得た後、Casa Finlandiaシリーズとしてガソリンスタンド用(CF-100/200)、キオスク用(CF-10)、住宅用(CF-45/Venturo)の3種を発表しました。これらは世界中で発売されましたが、オイルショックの影響で長くは生産されませんでした。
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Juha Leiviskä, 1936-
ユハ・レイヴィスカは、教会の設計で有名な建築家兼デザイナーです。ヘルシンキ工科大学で建築を学び、1964年に大学で助手を務める傍ら、自身の事務所を設立しました。
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コウヴォラ市庁舎 / Kouvolan kaupungintalo, 1969 |
ベルテル・サールニオと共にコンペを勝ち取ったコウヴォラ市庁舎は、1960年代のフィンランドで最も重要な公共建築の一つとされています。2017年のIltalehti誌による読者投票で、フィンランドで最も美しい市庁舎に選ばれました。
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ミュールマキ教会 / Myyrmäkin kirkko, 1984 |
光の教会として知られるミュールマキ教会は、バルタザール・ノイマンが設計した後期バロック様式のネレスハイム修道院(ドイツ)を念頭に設計された教会です。1日の太陽の動きを考慮し、自然光を巧みに利用することで芸術的な空間を構築しています。
レイヴィスカは、1970年代から90年代にかけてフィンランド各地の教会デザインで国際的に注目されるようになりました。ドイツのバロック様式の自然光の扱い方や、1920年代のオランダのデ・ステイルの影響を受けています。また、彼自身がデザインした照明器具も不可欠な要素となっています。
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なんとテンペリアウキオ教会を設計したスオマライネン兄弟の父は、灯台守だったそうです。自然の中にある灯台で過ごした経験があのような建築を生んだのでしょうか? なんだかとても親近感が湧いてきます。
表記のない画像はすべてWikimedia Commons