自然の色 〜 芸術家たちのテキスタイル
だんだんと町の木々が色づいてきました。毎朝、子どもたちが灯台のとびらの前にきれいな葉っぱや木の実を置いていってくれます。しっかりコレクションしてあるので、次回の展示はバッチリです。展覧会のタイトルは「Syksyn lapset|秋の子どもたち」。喜んでもらえたらいいなとおもっています ──
フィンランド手工芸友の会は、フィンランドの伝統的なテキスタイルデザインを保存する活動と同時に、コンテストなどを通じて、当時活躍していた芸術家やデザイナー、建築家などから、新しいデザインを募集するようになりました。
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白樺とナナマカド - ヘレン・シェルフベック
1902年から1910年にかけて画家のヘレン・シェルフベックは、フィンランド手芸友の会のために8種類のテキスタイル・パターンをデザインしました。ちょうど彼女にとっても芸術的な転換期であり、テキスタイル・デザインを通して、自身の新たな絵画スタイルを模索していきました。
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Helene Schjerfbeck / Koivukudos |
シェルフベックのテキスタイルは、彼女の絵画のようにシンプルで落ち着いた色彩が特徴です。クッションカバー「Ruunut」のデザインにある葉っぱと王冠のような花模様は、魔除けにも利用されるセイヨウナナマカドをモチーフとしているようです。
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Ruunut(フィンランド手工芸友の会) |
また彼女の白樺のタペストリーは、フィンランド工芸デザイン協会が毎年開催していた宝くじの景品にもなりました。1910年の当選者はオストロボニア地方のヴァーサ在住の方で、1994年にアテネウムで開催されたシェルフベックの展覧会に出品されました。
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ラップランドの景色 - ルート・ブリュック
フィンランドで最も尊敬されている陶芸家のルート・ブリュックは、とても多才で、芸術家であると同時に職人でもありました。彼女もまたフィンランド手工芸友の会のためにリュイユやテーブルクロス、クッションカバーなどの多くのパターンをデザインしています。
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Rut Bryk / Seita(フィンランド手工芸友の会) |
ブリュックは、1960年代に陶芸作品の制作と並行して、テキスタイル「セイタ」シリーズをデザインしました。イナリ近くのパータリ湖のほとりにある夏の家は、テキスタイルのデザインにはとても良い環境でした。ラップランドやベネチアの島々、インドの色使いなどを垣間見ることができます。
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Lintu Sininen(フィンランド手工芸友の会) |
1960年から63年までVaasa Cotton社の輸出コレクションとして生産されていた「セイタ」シリーズは、工場の合併によりフィンレイソン社のヴァーサ工場が引継ぎ、北米やドイツ、フランスなど、海外にも積極的に輸出されました。
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色の発明 - ティモ・サルパネヴァ
ティモ・サルパネヴァは、フィンランド手工芸友の会とのコラボレーションで、クッションカバーやティーコージーの柄をデザインしました。1949年には「シシシミイル・ラグ」のような斬新な解釈のリュイユのデザインも手がけています。
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Timo Sarpaneva / Sysimiilu(フィンランド手工芸友の会) |
サルパネヴァは、1955年から1970年の間、ポリ・コットン社やタンペラ社などいくつかの織物工場でアートディレクターを務めました。彼のテキスタイルデザインには、色に着目した「カレリア」シリーズや「アンビエンテ」シリーズなどがあります。
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Karelia / Ambiente |
アンビエンテは、彼が包装紙メーカーを訪れた際、印刷機の故障で色が混じったり滲んだりしていたことからヒントを得たものです。変化に富んだ流動的なパターンを生み出すために発明したオートメーションの印刷機械によって制作されました。アンディ・ウォーホルから「ユニークなアート作品として売れば億万長者になれる」と言われたそうです。
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バラの庭 - エリエル・サーリネン
フィンランドで最も有名な建築家の一人であるエリエル・サーリネンは、テキスタイル、家具、装飾品が調和した総合的なインテリアを数多くデザインしました。1904年にフィンランド手工芸友の会の25周年を記念して製作されたローズ・ラグは、友の会で最も人気のある敷物の一つです。
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Eliel Saalinen / Ruusu Ryijy(フィンランド手工芸友の会) |
ローズ・ラグはゲセリウス・リンドグレン・サーリネンのスタジオでもあったヴィトレスクで見ることができます。ローズシリーズとしてクッションやテーブルクロス、ナプキン、カーテンなどもあります。ヴィトレスクの庭に咲いていたバラに触発されてデザインされたものだといわれています。
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Hvitträsk|ヴィトレスク |
ヴィトレスクにあるおもなテキスタイルは、フィンランド手工芸友の会によって制作されています。また、2004年には友の会の125周年を記念してヴィトレスクでテキスタイルアートの展示会「Ruusu-näyttely|ローズ展」も開催されました。
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フィンランド手工芸友の会は現在も存続しており、2020年1月〜3月にはデザイン美術館で140周年の記念展覧会が開催されました。専門外の芸術家たちがテキスタイルのデザインを手がけていることは、テキスタイルというものがフィンランドの人たちにとってとても身近な存在であったことの証明なのかもしれません。
参考:tekstiilikulttuuriseura.fi, sarpanvadesign, pellervo.fi, ts.fi
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