君もフランク【カラマリ・ユニオン】

ジョニー、ジョーイ、ディーディー、トミー。ヨレヨレのジーンズにライダースの男たちがレンガ壁を背にして、睨みつけるモノクロームのジャケット写真。カウリスマキ監督、1985年の作品【カラマリ・ユニオン】を観ながら思い出していたのは、ラモーンズのファーストアルバム。彼ら4人の姓は、みなラモーンである。

さて、映画に登場するほとんどの男たちも自らをフランクと名のる。先の見えない退屈な毎日に嫌気がさしていたフランクたちは、エイラの地をめざすことに決めた。たったそれだけの小さな願いがどうした理由で誰に阻まれるのだろう。取り換えのきく歯車のように、ひとり、またひとりと脱落していく。

はたしてエイラになにがあるというのか。知らぬが仏。きっと誰もがわかっていながら、知らないふりをしている。それとも、灯台もと暗し。あたりまえに気づくのは、なかなかむずかしいものだから。

諦念、変節、愚直、暴走‥‥フランクという匿名性の蓑に隠れていた男たちから、そのうちそれぞれの個性がにじみでてくる。おなじ夢を見ていたはずなのにどうしてしまったのだろう。きっと、バンドの解散も同盟の解体も、その原因に大きな差はない。

不条理な世界ともいえるけれど、フランクたちの行動はまるで小中学生の悪ふざけみたいだ。カウリスマキ監督をはじめ、スタッフや出演者たちが笑いころげながら、こんなのどう?  やっぱりこれだろ?  そいつはいい!  現場で突然思いついたアイデアを撮っていたりして(ただの妄想です)。

映像は全編モノクローム。それにしても男どもというのは愚かすぎてどうしようもない。行き当たりばったりで現実がまったく見えていない。しかし、でも‥、だけど‥‥、いまふりかえったときに脳裏によみがえってくるのは、カラフルで生き生きとしたフランクたちの姿だったりする。

これはいけない。いつのまにか自分までエイラの魔法にかかってしまったみたいだ。はたしてそんな世界からぬけだすためにはどうしたらいいのだろうか(カウリスマキは映画をどう終わらせるのだろう)。

いや、おそらく映画が終わっても【カラマリ・ユニオン】の世界は永遠につづいてゆく。またそろそろエイラに繰り出してみないか?  懲りないフランクたちがもう相談をはじめている。

画像
RAMONES, 1976

カラマリ・ユニオン|Calamari Union(1985)
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
編集:アキ・カウリスマキ、ライヤ・タルヴィオ
出演:マルック・トイッカ、カリ・ヴァーナネン、マッティ・ペッロンパー、ペルッティ・スヴェホルム、ほか