さいごまで生きる【コントラクト・キラー】

現時点での最新作【枯れ葉】を含め、これまで6本のアキ・カウリスマキ作品を観てきた。最初は、フィンランドの市井の人々を描いた作品を撮る監督だとばかりおもっていたけれど、そういうわけでもなさそうだ。前々回はパリ、前回はヨーロッパ各地、今回はロンドンが舞台。
原題の【I Hired a Contract Killer】を訳すと「ぼくは殺し屋を雇った」。 突然会社をクビになり、途方に暮れた主人公アンリ(ジャン=ピエール・レオー)。自殺を試みるがうまくいかず、自分を殺してくれと依頼するところから物語は始まる。
部屋の内装などに使われているモスグリーン、ワインレッド、マスタードイエローといった色の組み合わせを見て、おぉ【枯れ葉】と同じだとおもうけれど、もちろんこちらのほうが先。マリメッコというよりはフィンレイソン的な色づかいといえるだろうか。いや、モッズコート、エンブレム、ベスパ 、ロンドンの色にちがいない。ところで、カウリスマキ監督は北欧デザインについてどんなふうに考えているのだろう。ちょっと聞いてみたい。
死は平等だけれど、生は不平等だ。だって、死をかなえることはできるけれど、生をかなえることはなかなかむずかしい。「死にたい」という言葉の奥には、かならず「生きたい」という意味がある。そういわずにいられないのは、生きることはいつも痛くて、つらくて、苦しいから。
この生と死の選択をわかつものとはいったいなんだろう。アンリは自分のことを臆病者だという。そこでおもうのは、勇気があることが生を終わらせる弱さになりうるということ。反対に、臆病であることが死を遠ざける強さにもなりうる。ぼくはとても自分勝手な人間だから、どんなひとにもさいごまで生きていてほしいと願う。そう願うかわりに、ぼくはさいごまで生きなければなければならないとおもう、できるかぎり。
カウリスマキ映画恒例のライブ演奏に登場するのは、元クラッシュのジョー・ストラマー。パーカッション奏者と二人で、"Burning Lights" と "Afro-Cuban Be-Bop"という曲を演奏している(当時、200枚限定で7"シングルも発売されたらしい)。演奏を見つめるアンリのように、きっとカウリスマキ監督もカメラの向こうでニンマリと笑っていたはず。
死にたくなったら、ぼくはいつだって音楽を聴く。死にたいとつぶやきながら、心のなかで生きたいと叫ぶ。
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コントラクト・キラー|I Hired a Contract Killer(1990)
原案:ペーター・フォン・バーグ
監督・脚本・編集:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
出演:ジャン=ピエール・レオ、マージ・クラーク、ケネス・コリー、トレヴァー・ボーウェン、ほか