旅の目的地【レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ】

旅の行き先も、旅の仲間も、すべては自分の選んだこと。誰かのためではなく自分のためにしたこと。うまくいってもいかなくても、どこにたどりついたとしても、その結果は自分で引き受けなくてはいけない。
ツンドラ地帯の掘っ立て小屋で演奏するレニングラード・カウボーイズ。マネージャーのウラジミール(マッティ・ペッロンパー)は、音楽プロデューサーのような人物の「アメリカへ行けばなんとかなる」という言葉を信じて、バンドを引き連れ、ニューヨークへと向かう。
ちなみにツンドラ(tundra)という言葉は、「木のない土地」というサーミ語に由来するそうだ。「なだらかな山」を意味するフィンランド語のトゥントゥリ(tunturi)も。管啓次郎・小島啓太『サーミランドの宮沢賢治』(白水社)を読んでいて、なるほど、とおもった。国境を越えるサーミの存在はやはり興味深い。
ニューヨークに着くと、バンドは目的地をメキシコに変更。行き当たりばったりのアメリカツアーが始まる。そこで移動のために古いキャデラックを購入する。車のディーラー役には【キノ・ライカ 小さな町の映画館】にも出演していた、ジム・ジャームッシュ監督。マネージャーの好き勝手にされて、だんだんメンバーたちが不憫におもえてくる。こんなつらいツアーの果てにメキシコでのんびり過ごしていた彼らを許してあげたい(【レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う】参照)。
アメリカを横断する(カウボーイズらしく南部へ)とともに、彼らは音楽のジャンルを横断する。ポルカ、ロックンロール、セカンドライン、ロカビリー、カントリー、ハードロック、スワンプ、マリアッチ‥‥。マネージャーの口から「ビーチボーイズ」の名前が挙がるけれど、サーフミュージックは演奏しない。カウリスマキ監督は、カリフォルニアの地を踏まないと断言していたそうだ(なんとなくわかるような気がする、笑)。
映画の終わり、マネージャーという役を離れ、素にもどったようなマッティ・ペッロンパーの笑顔がふと、胸を打つ。そして、これからまたあたらしい旅がはじまることをぼくらは知っている。
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レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ|Leningrad Cowboys Go America(1989)
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
編集:ライヤ・タルヴィオ
出演:マッティ・ペッロンパー、カリ・ヴァーナネン、レニングラード・カウボーイズ、ジム・ジャームッシュ、ほか