カイ・フランクの良心

良心とは自分自身に正直であることなのではないでしょうか。もちろん灯台守になったことは後悔していません。こうして美術館を開いているのも、自分がだれかを喜ばせたいというより、ただ、だれかの喜んでいる顔を見ていたいだけなんです ──

フィンランドの三大デザイナーといえば、タピオ・ヴィルッカラ、ティモ・サルパネヴァ、そしてその筆頭に挙げられるのが、今回とりあげるカイ・フランクです。彼はよく「フィンランドデザインの良心」と紹介されますが、その由来は一体どこからきているのでしょう。

Kaj Gabriel Franck, 1911-1989

1911年 ヴィープリ生まれ
1932年 中央美術工芸学校の家具デザイン科を卒業
1945年 アラビアのデザイン部門を任される
1946年 イッタラのデザインコンペで入賞
1950年 ヌータヤルヴィガラス工場の芸術監督に就任
1957年 ミラノ・トリエンナーレでグランプリを受賞
1960年 中央美術工芸学校の教授を務める

カイ・フランクは、これまでの一般的なテーブルウェアの認識を大きく変え、万能で実用的な質の高い食器を大量生産することによって、手頃な価格で提供することに成功しました。また、普遍性やライフサイクルにも着目し、シンプルで美しいデザインを探求しつづけました。

そうして生まれたのがイッタラの「テーマ」や「カルティオ」です。これらは、世代を超えて人気のあるロングセラーであり、伝説的なクラシックデザインといえます。

シンプルな形 - Kartio

1950年、カイ・フランクは、フィンランドで最も古いガラス工場であるヌータヤルヴィガラス工場のアートディレクターに就任します。ヌータヤルヴィの経営者やスタッフは、工場だけでなく村全体を発展させたいという意図をもっていました。彼は、そんなコミュニティの精神を気に入り、自分自身も村の一員であると考えました。

そこでカイ・フランクは、製品にデザイナー名を刻印しないことにしました。ものづくりは職人を含めたチームで行うものであること、また重要なのはデザインそのものであり、デザイナーが誰であるかは関係ないというおもいからです。

Kartio, 1953
Kartio, 1953 (©︎Iittala)

「カルティオ」シリーズは、1955年にニューヨーク近代美術館に展示された口吹きによる「2744」や、1953年のプレスガラスによる「5027」を原型としたデザインで、1993年にヌータヤルヴィガラス工場の200周年を記念して、生産が再開されました。それ以来イッタラでは、幅広いカラーバリエーションで提供しています。

テーマは色 - Teema

その謙虚な性格と明晰なビジョンによって、アラビアでもカイ・フランクの指示や決定は尊重されていました。彼は工場の製造プロセスにも精通しており、職人やものづくりにおけるチームを大切にしていたため、多くの同僚からも愛される存在でした。

また彼は「色こそがデザインに必要な唯一の装飾である」という言葉を残しています。良いもの、美しいものとされるためには、耐久性があり、頑丈で、掃除がしやすく、機能的で、使用されている素材に見合っていることが不可欠であると考えていました。そこで色以外のすべての余計な装飾は避けられることになりました。

Teema, 1981
Teema, 1981 (©︎Iittala)

「ティーマ」は、1953年にアラビアから発表された「Kilta」の後継シリーズ。「キルタ|ギルド、組合という意味」はシンプルで美しく、機能的で手頃な価格というカイ・フランクのデザイン哲学を象徴する製品です。フォルムや数はミニマルでも非常に汎用性が高く、使い手を選ばない普遍性を持っていました。技術的な問題で1974年に生産中止となりましたが、1981年に再生産されるようになりました。当初、彼は「Tiimi=チーム」という名称にしたいと考えていたそうです。

受け継がれる良心

カイ・フランクが「フィンランドデザインの良心」と呼ばれる所以は、機能美を追求したデザインに対する功績だけではなく、彼の職人やチームに対する姿勢や彼自身の性格にこそあるのかもしれません。

今では毎年それらを受け継ぐ若いデザイナーたちへ、彼の名を冠した賞「カイ・フランク・デザイン賞」が贈られています。1992年にデザインフォーラム・フィンランドによって設立されたこの賞は、フィンランドデザインの発展とデザイナーの支援を目的として、カイ・フランクの精神と理念を受け継ぐデザイナーに授与されています。最初の受賞者は、カイ・フランクとも交流のあったオイヴァ・トイッカでした。

参考:IittalaAikapaikka
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