Modern Classics|伝統と革新 〜 イルマリ・タピオヴァーラ、エーロ・アールニオ
どんなに古いものでも新しい時代があったはずです。おばあさんに少女時代があったように。赤ん坊がいつかおじいさんになるように。きっと新しさにも古さにも同じくらい価値があるのだと思います。この灯台の扉もかつてはとても綺麗で、取手やノブもピカピカに光っていました。今ではこんなに傷だらけで、見る影もありませんが。それでも自分にとっては大切な扉です、その傷も含めて ──
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木の温もり - Yrjö Ilmari Tapiovaara, 1914-1999
イルマリ・タピオヴァーラは、木材を使った椅子やテーブルを数多く手がけた家具・インテリアデザイナーです。フィンランドの伝統を踏襲した、その温かみのあるデザインは現在でも評価が高く、アアルトの後継者ともいわれました。
1914年 ハメーンリンナ生まれ
1934年 インテリアデザインに専攻を変える
1937年 ル・コルビュジエの事務所に勤める
1938年 家具メーカーAskoのアートディレクターとなる
1939年 インテリアデザイナーのアンニッキ・ハイバリネンと結婚
1946年 ドムスアカデミカのインテリア、内装を手がける
1950年 アンニッキとデザイン事務所を設立
1952年 イリノイ工科大学の助教授。ミース・ファン・デル・ローエの事務所にも勤務
1954年 ミラノ・トリエンナーレで金賞(1960年も)
イルマリ・タピオヴァーラが大切にしていたのは「人々のためのデザイン」という考え方です。戦中は東カレリアの前線で、戦後はケラヴァ木工会社で、貧しく厳しい環境の中、人々が本当に必要なものは何か、そのためにはどのようなものづくりをすれば良いかを、彼は常に考えていました。
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Domus chair/Pirkka stool (©️Artek) |
代表作の『ドムスチェア』は、ヘルシンキの学生寮「ドムスアカデミカ」のためにデザインされた椅子で、長時間座っても疲れにくく、心地よく過ごせるデザインを追究しました。布張りなしで、スタッキング可能であること、輸送コストを軽減するためにネジで組み立てられることなど、様々な工夫が見られます。のちに多くの公共施設でも使われ、フィンランドを代表する椅子として「フィンチェア」とも呼ばれています。
そのほかタピオヴァーラには『ピルッカ』『キキ』といった人気シリーズがあります。彼は、妻アンニッキと協力しながら、数々の企業から家具の設計を請け負いました。またイリノイ工科大学で教鞭をとり、ILOや国連などの機関を通して、パラグアイ、モーリシャス、エジプト、ユーゴスラビアに赴くなど、国際的にも活躍しました。
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プラスティックの美しさ - Eero Alvar Aarnio, 1932-
エーロ・アールニオは、家具デザインの革新者のひとりです。1960年代に強化プラスチックやグラスファイバーといった最先端の素材を使い、モダンで有機的なフォルムを追求し、従来のデザインのセオリーから脱却しました。彼は、自身の作品が「美しく、丈夫で長持ちしなければならない」と考えていました。
1932年 ヘルシンキ生まれ
1954年 芸術デザイン学校でインテリアデザインを学ぶ
1956年 ピルッコ・アッティラと結婚
1960年 ラハティのAsko社でデザイナー
1962年 ヘルシンキにデザイン事務所を設立
1966年 ケルンの家具見本市でボールチェアを発表
1967年 パスティルチェア発売、翌年アメリカ工業デザイン賞
アールニオは、インターンとして働いていた建築事務所でインテリアデザインを学ぶように勧められ、中央美術工芸学校へ入学します。イルマリ・タピオヴァーラやアンティ・ヌルメスニエミに師事した彼は、卒業後ラハティのAsko社でデザイナーとして働きました。約2年後、ヘルシンキに戻り、自身のデザイン事務所を設立します。
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Ball chair/Pastil chair (©️Eero Aarnio Originals) |
彼が、1963年に設計したボールチェアは、フィンランドデザインの中で最も有名で愛されているクラシックのひとつです。1966年、ケルンの家具見本市でデビューすると、ニューヨーク・タイムズ紙などにも取り上げられ、エーロ・アールニオの名を国際的なものにしました。 世界中のデザインミュージアムのコレクションに収蔵され、映画やミュージックビデオ、雑誌の表紙などに登場しています。
ボールチェアが世界中に出荷されるようになると、エーロは椅子と一緒に無駄な空洞も輸送されていることに気づきました。そこで機能性や物流上の効率を考え、この空洞に新しい家具が収まるのではないかと発案されたのが、パスティルチェアです。屋外でも使える(水にも浮く)このチェアは、人間工学に基づいた座り心地の良さと、そのフォルムや独特の美学が評価され、1968年、アメリカ工業デザイン賞を受賞しました。