ある光【希望のかなた】

カモメの声と汽笛の音。港には貨物船「エイラ」号がはいってくる。エイラといえば、映画『カラマリ・ユニオン』でフランクたちがめざした希望の地。 その「エイラ」号でフィンランドへやってきたシリア難民の青年カーリド(シェルワン・ハジ)は、はたしてこの国で希望の光をみつけることができるのか。
映画は、ふたつの物語を軸に進行する。移民局に難民申請をして、生き別れた妹をさがすカーリドと、それまでの生活に見切りをつけ、新たにレストラン経営をはじめるヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)。悲劇と喜劇がそのレストラン「ゴールデン・パイント」で交差する。しかし、そのどちらにも思い通りにならない現実が待ち受けている。
「アレッポの修理工場で働いていた」と話すカーリド。昨年12月にシリアのアサド政権が崩壊したときに、ニュースで聞いた街の名だと気づいた。それは、映画で描かれた現実がつい先日まで実際に続いていたということ。
ところで、ビールしか売れないレストラン(きっと店名のせい)は、起死回生をねらい、料理にお寿司をだすことにする。そのシーンでおもわずのけぞった。そこになんと、お会いしたことのあるフィンランド在住の方々がエキストラとして登場。
『希望のかなた』というタイトルに、カウリスマキ監督はいったいどんな意味を込めたのだろう。決して、ずっと遠くにある叶うことのない希望ということではないはず。自分のことよりも妹の未来を願うカーリドの希望。ヴィクストロムをはじめとする人々が、日々の暮らしのなかで失いかけていたものをふたたび取り戻す希望。まっすぐに生きることを信じて疑わない妹ミリアムの希望。
けれど、こう思う。カーリドだけでなく、だれもが自分自身のための希望をみつけること。そうした希望をみつけられる世界であること。それこそが希望のかなたにある光なのではないか、と。
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希望のかなた|Toivon tuolla puolen(2017)
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
編集:サム・ヘイッキラ
出演:シュルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン、イルッカ・コウヴラ、ヤンネ・ヒューティアイネン、ほか