ショーがはじまる【トータル・バラライカ・ショー】
レニングラード・カウボーイズを主演とする3作目の映画【トータル・バラライカ・ショー】は、ソビエト連邦軍の合唱団、アレクサンドロフ・レッドアーミー・アンサンブル(以下、アンサンブル)を迎えて、1993年6月12日に開催されたライブコンサートである。ヘルシンキの中心にある元老院前広場を、7万人の観客が埋め尽くした。
広場には、野外フェスで見られるような大きなステージ。一度のコンサートのために設営されたものとはおもえないほど。カンディンスキーのようなロシア構成主義的な壁画も描かれていた。アンサンブルは150人編成。軍服を着た合唱団と楽団がステージにずらりと並ぶ。
バンドは英米ロックの有名曲を、アンサンブルはロシア伝統曲をダンサーをまじえて演奏。レニングラード・カウボーイズと一緒にいると、アンサンブルが軍人のコスプレをしているように見えてきてしまう。けれど、これまでの映画ではあて振りのように演出されていたから、実際に演奏しているバンドの姿を見ていると、かっこよく感じてしまう不思議。アンサンブルの合唱コーラスも迫力があり、まるで音の壁のよう。
もしかしたらこれって『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』のコンセプトに近いんじゃないかとおもっていたら、メリー・ホプキンの「悲しき天使」がはじまった(彼女はポール・マッカートニーのプロデュースでアップル・レコードからデビュー。原曲がロシアの曲だと今回初めて知った)。映画では演奏曲のすべてが公開されているわけではないが、サウンドトラックにはビーチボーイズの「カリフォルニア・ガールズ」も収録されている。きっと舞台袖にマネージャーのウラジミールがいなかったからだとおもう。
まるで冗談のような企画をこうして実現してしまったということがなによりすばらしい。自分にはそんなことできるはずがないと思い込んで、二の足を踏んでいることはないだろうか。はじまりがただの思いつきだとしてもかまわない。さあ、ショーをはじめよう!
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トータル・バラライカ・ショー|Total Balalaika Show(1993)
監督:アキ・カウリスマキ
撮影:ヘイッキ・オルタモ
編集:ティモ・リンナサロ
出演:レニングラード・カウボーイズ、アレクサンドロフ・レッドアーミー・アンサンブル